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幸い、母は今、自分の朝食の調理中だ。
ここで自分が参加しなくても、姉と父の一騎打ち、ということになるので問題はない。逃げるのであるなら今をおいて他にない。
「おい、淳司、お前はどう思う」
(きた!)
しかし、これに参加したが最後、エベレストに登頂してその清らかな空気を満喫しているような気分最高の朝は滅茶苦茶になってしまう公算が高い。あとで父から何らかの報復があるかもしれないが、ここは無視してでも討論に加わらないほうが得策だ。
そう考えた淳司は、父の呼びかけが聞こえなかったふりをして、朝食を気分よく食そうと、欠伸をしながら母のもとに向かう。
だが、
「淳司、父さんが呼んでるわよ」
(くそ!)
流石は夫婦。以心伝心という奴だ。
自分に向けられた母の笑みが邪悪なものに感じられるのは気のせいだろうか、と淳司は疑わずにはいられない。
歯噛みしながら悔しさを押し殺しつつ、この危機を脱する為に淳司は、
「悪い、朝食を優先したいので、ノーコメント」
已む無くそう言った。だがこう言ってしまったら、
「なら、淳司からはあとで意見を聞こう」
……こうなる……
つまり、『議論に強制参加』の刑執行が、少しばかり遅れたに過ぎない。
父と姉は白熱した議論をかわしており、そこに母が加わる。『二対一とは卑怯だぞ!』という父の抗議も虚しく、女性陣は容赦無く批判という名の集中砲火を浴びせる。
……ああ、助けを訴える父の視線が痛い……
……あとでどんな報復がくるんだろうか……
……想像すると身震いがくるから、思考は停止しておこう……
喧騒の中、味噌汁を飲む音がやけに静かに聞こえる朝だった。
結局、朝早く起床したにも関わらず、白熱した『現代の十代について』討論に巻き込まれたおかげで、淳司はいつも通りの時間帯に家を出るはめになった。これでは何のために早く起きたのかさっぱりわからない。
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